東京地方裁判所 昭和42年(ワ)10884号 判決 1970年1月20日
原告 三井鉱山株式会社
右代表者代表取締役 倉田真人
右訴訟代理人弁護士 橋本武人
高島良一
小倉隆志
浅岡省吾
青木武
被告 大野潔
主文
被告は別紙物件目録(二)記載の物件を撤去せよ。
被告は原告またはその指定する従業員およびその関係者が別紙物件目録(一)記載の土地のうち朱線をもって囲った部分を通行することを妨害してはならない。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
一、当事者の求めた裁判
(一) 原告 主文と同旨の判決
(二) 被告 原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決
≪以下事実省略≫
理由
一、原告が被告より東京都杉並区東田町二丁目一四番地二の宅地三三八・八八平方米を昭和二七年一月二〇日以降賃借りしていたことは当事者間に争いがない。
≪証拠省略≫によると次の事実が認められる。
(一) 原告は右借地上に家屋を建て、従業員の社宅として使用したが、賃貸借当初より、北側公道に通じるため被告所有の別紙物件目録(一)の土地のうち添付図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の一五六・四八平方米(朱線部分)の私道を道路として使用することにつき被告との間に黙契が存在し、原告はこれに合わせて前記家屋の玄関、門をそれぞれ同図(B)、(A)の箇所に設け、ただ非常口用として南側区道に接した南西角に巾三尺の木戸を設けた。その後、昭和三六年三月二四日同土地のうち南側区道に接する一〇五平方米につき合意解約して返還したが、その際、右木戸は南東角に移された。
(二) ところが、被告は昭和四二年春頃、本件私道の前記門に接するところに杭を立て、トタン板を張り、有刺鉄線をめぐらして通行を避断した。
その理由として、被告がいうには原告の賃借地を娘婿の西野に贈与したので、被告所有地との境界を判然とさせるため右の挙に出たということであった。
(三) しかしながら、原告としては借地した昭和二七年以来通行してきたところである。のみならず、右借地上の家屋は原告会社の社宅であるから、その居住者は都心の原告会社に通勤するため、本件私道を経て国電阿佐ヶ谷駅に至るのが便利であり、もし非常口から南側区道に出ると、時間的に三、四分は余計にかかるし、しかも、玄関から新しい非常口(南東角)に至るまでには、途中物干場や植樹があって、通行が必ずしも容易ではない。
これに反し、被告は本件私道の通行を原告に対してのみ閉鎖して、その余の人には従前どおり通路として通行、使用を認めている。
二、以上の事実に照すと、原告の本件私道使用関係は、原告が開設しないしは維持、管理している通路というわけでもないから、継続、表現のものというを得ず、これを通行地役権の設定とみることはできない。
けれども、被告は原告との賃貸借契約当初より本件私道の通行を容認する黙示の契約をしたものと認められ、それは使用貸借と解されるところ、前記認定の事情のもとでは原告借地から本件私道への入口である別紙添付図面部分を杭、トタン板、有刺鉄線等で閉鎖して通行遮断することは、被告にとって全くその必要も利益もないのに拘らず、いたずらに原告に対し、生活上の不便、困惑等の不利益を与えることのみを意図したものであって、権利の濫用という他はない。
従って、被告の本件閉鎖行為は許されないから、これが障碍物件の撤去並びに妨害行為の禁止を求める原告の本訴請求は理由がある。
よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 牧山市治)
<以下省略>